「エンジニアリングプラスチックは種類が多く、どの材料を選べばよいかわからない」
「物性表を見ても、自社の部品に適した材料を判断できない」
と悩んでいませんか。
材料選定では、強度や耐熱性だけでなく、耐薬品性・耐摩耗性・寸法安定性・加工性・コストまで含めて比較することが重要です。高性能な材料が必ずしも適しているとは限りません。
本記事では、代表的な5大エンジニアリングプラスチックの特徴や用途、要求性能から材料を絞り込む3STEP、設計時の注意点を解説します。
部品の使用条件に合った材料を選べるようになりたい方は、ぜひ参考にしてください。
エンジニアリングプラスチックとは?強度・耐熱性に優れた高機能素材
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは、汎用プラスチックよりも強度や耐熱性などに優れ、機械部品や電気・電子部品などに使用される高機能なプラスチックの総称です。
明確な定義はありませんが、一般的には耐熱温度100℃以上、強度49MPa以上、曲げ弾性率2.5GPa以上などがひとつの目安とされています。
代表的なエンプラにはPOM・PA・PCなどの「汎用エンプラ」と、より高い耐熱性・耐薬品性を備えたPEEKやPPSなどの「スーパーエンジニアリングプラスチック」があります。
エンプラは金属より軽量で摺動性や電気絶縁性にも優れるため、精密切削加工によって歯車や軸受などの金属部品をエンプラに置き換えることも可能です。
ただし、エンプラは種類によって耐熱性や強度、加工性などの特性が大きく異なります。
したがって、使用温度・荷重・必要な精度など、部品に求める性能を整理したうえで適切な材料を選ぶことが重要です。
まず押さえておきたい!5大汎用エンジニアリングプラスチックの特徴と用途

汎用エンジニアリングプラスチックには、それぞれ得意とする性能や適した用途があります。
代表的な材料は以下の5種類です。
- ポリアセタール(POM)
- ポリアミド(PA)
- ポリカーボネート(PC)
- ポリブチレンテレフタレート(PBT)
- 変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)
適切に材料を選定するためにも、各材料の摺動性・耐摩耗性・耐衝撃性・電気特性・寸法安定性などの違いを把握しておくことが重要です。
ここでは、5大汎用エンプラの特徴と代表的な用途を解説します。
1.ポリアセタール(POM)|摺動性と寸法安定性に優れる
ポリアセタール(POM)は、摺動性や耐摩耗性に優れたエンジニアリングプラスチックです。
したがって、ギアや軸受、ローラーなどの摩擦が生じる機械部品に多く利用されています。
吸水率が比較的低く、寸法安定性に優れている点も特徴で、一定の寸法精度が求められる精密部品や、金属部品を軽量化したい場合にも適しています。
POMには強度に優れるタイプや薬品に強いタイプなどがあり、種類によって性能が異なるため、使用環境や部品に求める性能に合わせてグレード(性能タイプ)を選ぶことが大切です。
一方で、接着性や耐候性が低いなどのデメリットもあります。
屋外や接着を前提とする部品に使用する場合は、使用環境や接合方法まで確認したうえで材料を選びましょう。
2.ポリアミド(PA)|強度と耐摩耗性に優れる
ポリアミド(PA)は、一般にナイロンとも呼ばれ、強度や耐摩耗性に優れるエンジニアリングプラスチックです。
同じ摺動部品向けの材料でも、POMは寸法安定性を重視する場合、PAは強度や耐摩耗性を重視する場合に選ばれる傾向があります。
したがって、PAは機械的な負荷がかかるギア・ベアリング・ローラーなどに幅広く使用されています。
PAにはPA6やPA66、PA12など複数の種類があり、耐熱性や吸水特性が異なるため、用途に応じて材料を選ぶことが大切です。
ただし、PAは吸水率が高く、湿度によって寸法や機械的特性が変化する場合があるため、設計の際は注意しましょう。
3.ポリカーボネート(PC)|耐衝撃性と透明性に優れる
ポリカーボネート(PC)は、高い耐衝撃性と透明性を兼ね備えたエンジニアリングプラスチックです。
強い衝撃が加わる可能性のある保護カバーや機器筐体、透明部品などに利用されています。
ガラスのように内部を確認できる透明性を持ちながら、強い衝撃にも耐えられる点が大きな特徴です。
寸法安定性にも優れており、電気機器の確認窓や計器カバーなど、視認性・耐衝撃性・寸法精度が求められる部品にも使用されています。
一方で、使用する薬品によってはクラックや劣化が生じる場合があります。
薬品や洗浄剤と接触する用途では、使用環境に対する耐薬品性を確認してから使用しましょう。
4.ポリブチレンテレフタレート(PBT)|電気特性と寸法安定性に優れる
ポリブチレンテレフタレート(PBT)は、電気絶縁性や寸法安定性に優れ、電気・電子部品で広く使用されるエンジニアリングプラスチックです。
コネクタ・スイッチ・センサー周辺部品・各種電装部品などに採用されています。
吸水率が低いため、湿度変化による寸法への影響を抑えられる点もメリットです。
ガラス繊維で強化したグレードや難燃性を高めたグレードもあり、高い剛性や電気安全規格への対応が求められる部品にも利用できます。
ただし、同じPBTでも強化材や添加剤の有無によって特性が異なる点には注意が必要です。
設計時には樹脂の種類だけでなく、使用予定のグレードまで確認しましょう。
5.変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)|耐熱性と電気特性に優れる
変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)は、耐熱性や電気特性に優れたエンジニアリングプラスチックです。
吸水率が低く、湿度による寸法変化や電気特性への影響が小さいため、電気・電子機器の部品などに利用されています。
比較的軽量で寸法安定性にも優れており、コネクタ・機器筐体・電装部品など、電気絶縁性と形状の安定性の両方が求められる用途にも適しています。
自動車のラジエータグリルや内装部品など、耐熱性と軽量性を両立したい部品にも対応可能です。
一方で、変性PPEは使用環境によって、薬品や油などの影響を受ける場合があります。
洗浄剤や油類に触れる部品へ採用する場合は、使用する薬品や温度条件に対する耐性を事前に確認しましょう。
要求性能から絞り込む!エンジニアリングプラスチックの選び方3STEP

エンジニアリングプラスチックは、材料ごとに得意な性能と注意点が異なります。
そのため、材料選定の際は最初に「必要な性能」を整理することが重要です。
そのうえで、「機械的性能」「使用環境」「性能とコスト」の順に確認すると、候補を効率よく絞り込めます。
ここでは、機械設計者がエンジニアリングプラスチックの材料選定の際に確認したいポイントを3STEPで解説します。
1.強度・剛性・荷重条件から候補を絞る
材料選定の際は、最初に部品に加わる荷重の大きさと方向を確認します。
引張・圧縮・曲げ・せん断・衝撃などの荷重条件を確認し、引張強さ・曲げ強さ・弾性率・衝撃強さなどの物性値を比較します。
特に金属部品をエンジニアリングプラスチックへ置き換える場合は、破損しないかだけでなく、荷重を受けたときの「たわみ」にも注意が必要です。
弾性率が低い材料では、強度を満たしていても変形が問題になる場合があります。
必要な剛性を確保できない場合は、ガラス繊維強化グレードの採用に加え、肉厚の変更やリブの追加なども検討し、機械的な要求を満たす材料だけを候補として残します。
2.使用環境に合わせて耐熱性・耐薬品性などを確認する
次に、機械的性能を満たした候補が、実際の使用環境に適しているかを確認します。
使用温度だけでなく、薬品・水分・油・紫外線・湿度・電気的条件など、部品がさらされる環境を具体的に整理しましょう。
耐熱性は「耐熱温度」という一つの数値だけで判断せず、高温にさらされる時間や温度変化の程度など、実際の使用条件と材料データを照らし合わせて評価することが重要です。
耐薬品性に関しても、薬品の種類・濃度・温度・接触時間によって、材料への影響や使用可否が変わります。
物性表を見るときは、樹脂の種類だけでなくグレードや試験条件まで確認しましょう。
汎用エンプラでは要求を満たせない場合は、PPSやPEEKなどのスーパーエンプラの利用も検討しましょう。
スーパーエンプラについては、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
関連記事:スーパーエンジニアリングプラスチックの教科書|特徴・選び方・設計時の注意点
3.必要性能とコストを比較して最適な材料を選ぶ
STEP1・2で要求性能を満たす材料を絞り込んだら、最後に材料費や加工費、調達性を比較します。
高性能な材料ほどよいと考えるのではなく、必要な性能を満たす範囲で選ぶことが、過剰品質やコスト上昇を防ぐポイントです。
また、確認すべきなのは素材単価だけではありません。
切削時間や工具への負荷、材料の歩留まりなどによって加工費も変わります。
切削加工を前提とする場合は、必要なサイズの板材・丸棒や、対象グレードの入手性も事前に確認しましょう。
材料価格だけでなく、加工費や調達性まで含めた総合的なコストで比較することで、性能とコストのバランスが取れたエンジニアリングプラスチックを選定できます。
設計時に押さえたい!エンジニアリングプラスチックの3つの注意点
適切なエンジニアリングプラスチックを選んでも、金属部品と同じ感覚で寸法や形状を設定すると、必要な精度や耐久性を確保できない場合があります。
特に精密切削部品では、吸水や熱による寸法変化、長時間荷重による変形、部品形状に応じた加工性まで考慮することが重要です。
設計段階でこれらを見落とすと、量産後に図面変更が必要になることもあります。
ここでは、設計時に押さえておきたい3つの注意点を解説します。
1.吸水や熱膨張を考慮して公差を設定する
エンジニアリングプラスチックは、材料によって吸水率や熱膨張特性が異なるため、加工直後の寸法だけを基準に公差を設定することは避けましょう。
特に、PAなど吸湿の影響を受ける材料では、使用環境の湿度によって寸法が変化する場合があります。
また、樹脂は温度変化によっても膨張・収縮するため、使用温度範囲や寸法測定時の温度条件の確認も重要です。
設計時は材料メーカーの物性表から吸水率や線膨張係数を確認し、寸法変化の許容可否を判断します。
すべての寸法に厳しい公差を指定するのではなく、組み付けや摺動など機能に直結する寸法を見極めて公差を設定することがポイントです。
2.長時間荷重によるクリープ変形を考慮する
エンジニアリングプラスチックには、一定の荷重を長時間受け続けると、時間の経過とともに変形が進む「クリープ」という性質があります。
短時間の強度試験では問題のない材料でも、荷重を受け続ける支持部品やボルト締結部では、徐々に変形して機能へ影響する可能性があります。
したがって、引張強さなどの短時間の試験で得られる物性値だけでなく、長期間荷重がかかった場合の変形まで考慮することが重要です。
温度が高くなるほどクリープの影響が大きくなる材料もあります。
必要に応じて断面積を増やして応力を下げる、応力集中を避ける、金属部品を併用するなど、材料だけでなく形状・構造面からの対策も検討しましょう。
3.設計初期から加工会社へ相談する
エンジニアリングプラスチックの切削加工は、部品形状や肉厚、公差、加工箇所によって難易度が変わるため、材料選定と加工性を切り離して考えないことが重要です。
物性上は要求を満たす材料でも、薄肉形状や厳しい公差が求められる場合には、必要な加工精度を確保できない場合があります。
設計の初期段階から加工会社へ相談し、使用温度・荷重・接触する薬品・必要公差・数量などの条件を共有することで、材料特性と加工性の両面を踏まえた仕様を検討できます。
加工会社と早い段階から連携し、加工上の問題や設計変更のリスクを抑え、より実現性の高い部品設計につなげましょう。
まとめ|エンジニアリングプラスチックの強みを活かして設計の幅を広げよう
エンジニアリングプラスチックは汎用プラスチックよりも強度や耐熱性などに優れた材料で、機械部品をはじめ幅広い工業用途で活用されています。
代表的な材料には、POM・PA・PC・PBT・変性PPEなどがあり、それぞれ得意とする性能が異なります。
材料選定の際は、耐熱性や強度などの特定の性能だけで判断せず、部品に加わる荷重・使用温度・薬品・水分などの条件を踏まえて総合的に判断することが重要です。
設計の際は、吸水や熱による寸法変化や長時間荷重による変形、部品形状に応じた加工性まで考慮する必要があります。
したがって、設計段階から加工会社へ相談し、加工後の手戻りやコスト増加を防ぐことが重要です。
プラスチック精密切削加工を手がける伸光製作所では、創業以来培ってきた技術とノウハウを活かし、材料選定から精密切削加工まで幅広く対応しています。
エンジニアリングプラスチックの材料選定や加工可否でお悩みの方は、伸光製作所へお気軽にご相談ください。
